2009年8月20日木曜日

04005■大地の年輪により解き明かされるもの



去の森の変遷や気候の変動が年単位で復元できるように
――  地球温暖化が話題となっています。先生は、日本の八世紀から九世紀を「大
仏温暖期」と名付け、地球規模の「中世温暖期」に当たる時代があった、とおっしゃいます。このようなことは、ご専門の花粉分析、つまり、土に含まれる花粉の化石を取り出し、花粉の種類や量を調べ、過去の植生や環境を類推する、という方法でわかるのでしょうか。
安田 最近、花粉分析も技術が進みました。
 これまでは放射性炭素14による年代測定という方法で年代を調べていましたが、その年代はプラス・マイナス50年、100年という統計上の誤差がつきます。
ところが、2000年に我々は
「年縞

というのを発見しました。湖底の堆積物の中に縞々の模様があることがわかったんです。福井県の水月湖というところで一番最初に見つけました。ここは原子力発電所のある敦賀市の近く、三方五湖にあります。 そこでボーリングをして湖底の堆積物を見たら、ずうっと縞々の模様が連続してあったものですから、一体何だろうと調べたら、湖は春先から夏にかけては珪藻という藻が繁殖するんです。秋から冬にかけてはそういうものが繁殖しません。珪藻が繁殖した層は白いんですが、繁殖しない秋から冬にかけては黒い層です。白黒がセットになって、年輪と同じようなものが堆積していたのです。




 そこに含まれている花粉や、珪藻、いろいろな微化石を復元すると、過去の森の変遷や気候の変動が年単位で復元できるようになったんです。 これは非常に画期的なことで、2003年1月にアメリカの科学雑誌「サイエンス299号」に載りました。今、世界が注目しています。
 今まで過去の気候変動を年単位で復元できるものに年輪がありました。年輪の中に含まれているセルロースという成分がありますね。セルロースは炭素を含んでいますから、炭素(C)の同位体を測ることによって、水温の変動がわかります。木が水を吸い込みます。水温が高いときに形成されたセルロースと低いときに形成されたセルロースによって、C13とC14の比が変わってきます。それを測ることによって、過去の歴史代の気温の変動がわかってきました。
ところが、いくら屋久杉でも、屋久杉の真ん中は空洞ですから、結局測れるのはせいぜい2000年くらいです。それより古い時代の話はできなかったんですが、それが年縞を見つけることによって、10万年くらいまで話ができるようになりました。今は一万年前の気候変動でも年単位で調べることができます。
だから、むしろ人間の歴史のほうがついていけない。歴史代には文書があり、西暦何年という記事がありますから、はっきりしているわけですが、文書のない時代になってくると、遺跡の年代を決定する方法は、今のところ炭素14による年代測定しかないですから、逆に人間の歴史のほうがあいまいで環境の歴史のほうが逆に細かくできるようになったんです。
―― そうすると、過去の温暖化などは簡単にわかるわけですね。


安田 そうです。「サイエンス299号」に載った論文の内容はどういうことかというと、地球の温暖化は15000年くらい前に始まります。氷河時代が終わって、地球の年平均気温が一気に5度から6度ほど上がります。今まで気候の変動は、南極が暖かくなれば、北極も温帯地域も暖かくなると思っていました。ところが、15000年前の急激な温暖化には気候変動のズレがある、ということがわかったんです。15000年前にいち早く気候が温暖化したのは、我々のモンスーンアジアで、北極やヨーロッパは約500年ずれる、ということがわかりました。

―― 時間差があるわけですね。
安田 大きな規模の気候変動には時間差や地域差があることがわかってきました。
今、北極は確実に温暖化していますが、南極は温度が下がってきていると言い出してきた。
気候変動は必ずしも地球全体が暖かくなるのではなくて、どこかは暖かくなったが、どこかは寒くなる、地域差や時間差があるという方に、今、大きく気候変動の流れがシフトしています。
「サイエンス299号」に論文が出たら、三か月後に僕の弟子の中川毅君にイギリスのニューカッスル大学から電話がかかってきて、「面接に来なさい」と。すぐ行ったら、「あなたをうちの助教授に採用します」と言われて、今、向こうの助教授になっています。また僕は、今年の4月にスウェーデンの王立科学アカデミーの会員になりました。びっくりしました。やはり仕事が評価されたんですね。


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